大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 平成2年(ワ)649号 判決 1991年8月30日

原告

寺島忠一

ほか二名

被告

大平勲

ほか一名

主文

一  被告らは、連帯して、原告寺島忠一に一九六四万二八〇〇円、その余の原告にそれぞれ一一〇七万一四〇〇円金及びこれらに対するいずれも平成元年四月一八日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その三を原告らの、その余を被告らの負担とする。

四  この判決第一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、連帯して、原告寺島忠一に対し三一二三万二二四九円、その余の原告らに対しそれぞれ一五六一万六一二四円及びこれらに対するいずれも平成元年四月一八日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告らが左記一1の交通事故の発生を理由として、被告大平に対し民法七〇九条に基づき、被告会社に対し自賠法三条に基づき損害賠償を請求する事案である。

一  争いのない事実

1  本件事故

(一) 日時 平成元年四月一七日午後五時二五分ころ

(二) 場所 愛知県知多市南浜町三六番地先西知多産業道路上

(三) 加害車 被告大平運転の普通乗用自動車

(四) 被害車 寺島美代子運転の軽四輪貨物自動車

(五) 態様 加害車がセンターラインをオーバーのうえ対向車線に進入して被害車と正面衝突し、美代子を死亡させた。

2  責任原因

被告大平は、その過失により本件事故を惹起したものであり、被告会社は加害車を自己のために運行の用に供する者である。

3  相続関係

原告忠一は、美代子の夫であり、その余の原告らは美代子と原告忠一の子であつて、美代子の相続人は原告らのみである。

二  争点

当事者は、損害額及び損害の填補の内容を争つている。これらの点に関する原告の主張の要旨は次のとおりである。

1  美代子の逸失利益

美代子は、主婦として働くかたわらPTAの活動に積極的に参加し、またパートタイムとして勤務するなど一人三役をこなしてきたものであるから、その逸失利益は、賃金センサスによる平均賃金に同人がパートタイムによつて得ていた収入を加算し、これを基礎として計算すべきである。

2  葬儀費用

被告会社の社長及び従業員は、通夜の席上原告らに対し葬儀費用全額(六〇〇万円)を負担する旨約したから、全額を損害として認定すべきである。

3  損害の填補

本件事故につき自賠責保険から支払のあつた二五〇〇万円のうち二〇〇万円は、美代子の母である市川スミが受領し固有の慰謝料に充当したから、右金額は本件訴訟における損害の填補の計算から除外すべきである。

第三争点に対する判断(成立に争いのない書証、弁論の全趣旨により成立を認める書証については、その旨の記載を省略する)

一  損害額

1  美代子の逸失利益(請求四七四六万四四九九円)四〇一八万五六〇〇円

(一) 証人寺島三郎、原告忠一、甲三、甲五、甲六によれば、美代子は、本件事故当時三三歳の主婦で、原告らと原告忠一の父母との六人家族の家事をみるほか、スーパーマーケツトにパートタイムとして勤務し昭和六三年には五九万九〇五〇円の収入があつたことが認められる。

右事実によれば、美代子の逸失利益は、平成元年賃金センサス第一巻一表産業計・企業規模計・学歴計の三〇歳ないし三四歳の女子労働者の平均年間給与額二九三万五九〇〇円を基礎として計算するのが相当であり、就労可能年数を右三三歳から六七歳までの三四年間、生活費控除割合を三〇パーセントとすると、美代子の逸失利益は次のとおり四〇一八万五六〇〇円となる。

2,935,900×(1-0.3)×19.5538=40,185,600

(二) なお、主婦のパートタイム収入は、特段の事情のない限り、家事労働に充てる時間をそれ以外の労働に振り向けることにより得られるものであると考えられるから、そのパートタイム収入を賃金センサスによる平均賃金に加算して逸失利益算定の基礎となる収入額を算定するのは相当でなく、この点に関する原告らの主張は採用することができない。

2  美代子及び原告らの慰謝料(請求合計二八〇〇万円) 合計二〇〇〇万円

本件事故の態様(美代子には過失がなく被告大平の一方的過失による)、結果、美代子の家族構成(本件事故当時原告聖子は九歳、原告由美子は六歳)、後示のとおりすでに原告らのほか美代子の母市川スミが自賠責保険から固有の慰謝料として二〇〇万円を受領していること等を勘案すると、本件事故の慰謝料は、美代子自身の分として九五〇万円、原告らの固有分としてそれぞれ三五〇万円をもつて相当と認める。

3  葬儀費用(請求六〇〇万円) 一五〇万円

(一) 証人寺島三郎、原告忠一及び弁論の全趣旨によれば、美代子がPTA役員等をしていたときに本件事故で死亡したため会葬者が増え、葬儀費用が高額に上つたことが認められるから、このような事情も考慮すると、葬儀費用のうち本件事故と相当因果関係にある部分として右金額を認めることができる。

(二) これについて証人寺島三郎、原告忠一は、通夜の席上被告会社の社長とおぼしき人物に、葬儀費用は一切被告会社の負担としてもらいたいと申入れ、その了承を得た旨証言するが、その内容を吟味すると必ずしも葬儀費用がいくらかかるかにかかわらずその全額を負担するとの確定的な発言をしたというものであるのか疑問がある。そして葬儀費用の具体的金額が判明していない通夜の段階で被告側がそのような約束をするのは極めて例外的なケースであると考えられること及び証人矢野忍の反対趣旨の証言も併せ考慮すると、前掲各証拠は直ちに採用することができないといわなければならず、原告らの主張は採用することができない。

二  損害の填補及び弁護士費用

1  前示争いのない相続関係及び弁論の全趣旨によれば、美代子の損害賠償請求権は原告らが法定相続分に従い相続し、葬儀費用は原告忠一が負担しているものと認められるから、原告らの個別の損害額は、原告忠一が二九八四万二八〇〇円、その余の原告らがそれぞれ一五九二万一四〇〇円となる。

(40,185,600+9,500,000)×1/2+3,500,000+1,500,000=29,842,800(40,185,600+9,500,000)×1/4+3,500,000=15,921,400

2  甲一三の一ないし七、甲一四によれば、本件事故による前示の各損害に対し自賠責保険から保険金二五〇〇万円の支払があり、そのうち原告忠一が一一五〇万円を、その余の原告らがそれぞれ五七五万円を受領していることが認められるから(残額二〇〇万円は美代子の母市川スミが受領)、これを控除すると損害の残額は、原告忠一が一八三四万二八〇〇円、その余の原告らがそれぞれ一〇一七万一四〇〇円となる。

3  弁護士費用(請求合計四〇〇万円) 合計三一〇万円

本件事案の性質、認容額等に照らすと、原告忠一につき一三〇万円、その余の原告らにつきそれぞれ九〇万円が相当である。

三  結論

以上の次第で、原告らの請求は、被告らに対し、連帯して、原告忠一に一九六四万二八〇〇円、その余の原告にそれぞれ一一〇七万一四〇〇円及びこれらに対するいずれも原告らの請求の本件事故の日の翌日である平成元年四月一八日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 夏目明德)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例